孤独死現場のコンクリート洗浄はなぜ難しいのか

孤独死現場の特殊清掃では、体液がコンクリートに深く浸透してしまうケースがあります。木材やクロスと違い、コンクリートは多孔質の素材であるため、時間が経過するほど内部まで汚れ物質が染み込み、においの原因物質が取り除きにくくなります。今回は、コンクリート面の洗浄工程と、現場で絶対にやってはいけない対応について解説します。

※本記事は、当社の完全脱臭技術における「9つの基本工程」の第3ステップを深掘りした専門解説ページです。全体の流れや他の工程については、まず孤独死の特殊清掃|完全脱臭技術ページをご覧ください。

コンクリートに染みてしまった体液除去の様子

体液が浸透したコンクリートの洗浄工程

1. 除去・初動処置

まずはヘラや吸収剤を使い、体液や汚れ物を可能な限り物理的に取り除きます。使用した雑巾やブラシなどの資材は使い捨てとし、つど廃棄するのが基本です。

コンクリートを本格洗浄する前に前処理で洗浄している様子

2. バイオ洗浄(酵素・微生物系洗浄剤)

体液由来のタンパク質や脂質を分解するため、酵素系またはバイオ洗浄剤を散布します。一定時間浸透させることで、コンクリート内部の汚染物を分解していきます。

このとき、過酸化水素を併用することで分解・漂白効果を高める方法もよく用いられます。ポイントは以下の通りです。

  • 一度で落とそうとせず、「散布→放置→拭き取り→乾燥」を何度も繰り返すことが基本。深部に浸透した体液は一回の処理では分解しきれないため、根気強い反復作業が必要になる。
  • お湯の温度は30度前後のぬるま湯を使用する。高温すぎるとタンパク質が変性して固まり、逆に落ちにくくなるため、酵素が働きやすい温度帯を保つ。
  • バイオ洗浄剤(酵素)と過酸化水素を使い分け、または段階的に併用し、汚れ部分に浸透させる。

過酸化水素が効果的な理由には化学的な裏付けがあります。血液中にはカタラーゼという酵素が含まれており、これが過酸化水素と反応すると分解が起こり、泡(発泡)が発生します。この発泡反応は、血液成分が残存しているかどうかを見分ける目安にもなり、清掃作業員が浸透具合や汚染範囲を判断する手がかりとして活用されます。

近年では、この反応原理を応用したカタラーゼ分解洗剤も特殊清掃の現場で使われています。血液由来のタンパク成分を効率的に分解しながら、発泡によって汚染箇所を可視化できる点が特徴で、コンクリートのような多孔質素材への浸透汚染に対しても、酵素洗浄剤や過酸化水素と組み合わせて使用されるケースがあります。

3. 洗浄・拭き取りの反復

「洗浄→拭き取り→乾燥→臭気確認」というサイクルを、においが完全になくなるまで繰り返します。現場によっては数回から十数回に及ぶこともあります。

①洗浄

バイオ洗浄剤や過酸化水素系薬剤をコンクリート面に散布し、一定時間(数分〜十数分程度)置いて汚れ物質を分解させます。浸透具合に応じてブラシで軽くこすり、繊維の目に入り込んだ汚れを引き出すこともあります。

②拭き取り

分解された汚染物質と薬剤を、使い捨てのマイクロファイバータオルで丁寧に拭き取ります。拭き取った資材はそのつど廃棄し、二次汚染を防ぎます。拭き残しがあると次の乾燥工程でにおいが再付着する原因になるため、面全体をムラなく拭き取ることが重要です。

③乾燥

送風機や除湿機を使ってコンクリート表面をしっかり乾燥させます。水分が残った状態では臭気の判定が正確にできないほか、菌の繁殖を招くおそれもあるため、次の工程に進む前に十分乾かすことが欠かせません。

コンクリにしみこんだ体液を除去してリフォームが済んだ時の様子

④臭気確認

乾燥後、実際ににおいを嗅いで浸透汚れが残っていないかを確認します。目視では汚れが取れているように見えても、コンクリート内部に染み込んだ体液が完全に分解されていないと、乾燥後に独特の臭気が再び感じられることがあります。私たちは経験的にこの臭気の強弱を判断材料とし、「まだ浸透している」と感じればもう一度①からのサイクルをやり直します。

このサイクルを、においがまったく感じられなくなるまで根気強く繰り返すのが、コンクリート洗浄における特殊清掃の基本姿勢です。1回の処理で終わることは少なく、汚れの深さや経過日数によっては、数日にわたって同じ工程を反復することもあります。

4. 消臭・除菌の最終確認

目視だけでなく、臭気によって浸透の有無を判断します。必要に応じてオゾン脱臭機などを併用し、最終確認を行います。

近年では、作業員の嗅覚だけに頼らず、専門機材を使って客観的に臭気を数値化・可視化する現場も増えています。代表的な機材は以下の通りです。

  • 臭気測定器(OMX-ADMなど):においの強さを数値で計測する機器。処理前後の数値を比較することで、洗浄効果を客観的なデータとして示せる。
  • 混合臭測定器:複数のにおい成分が混ざった状態を測定できる機器。体液臭は単一成分ではなく複合的なにおいのため、こうした機器で総合的に臭気レベルを把握する。
  • ファイバースコープ:配管の隙間やコンクリートの目地・ひび割れなど、目視では確認しづらい狭い箇所に挿入して内部の汚れの状況を確認する機器。表面上はきれいに見えても、内部に汚れが残っているケースを発見するのに役立つ。

こうした機材を併用することで、「臭気がなくなった」という判断を人間の鼻の感覚だけに頼らず、根拠を持って説明できるようになります。特に施主や管理会社への報告時には、数値やデータがあることで作業の妥当性を示しやすくなるというメリットもあります。

臭気測定をしてにおいがおちたことを確認している様子OMX-ADMを使用

見まねで絶対にやってはいけない行為

においがなかなか取れない場合でも、グラインダー等でコンクリート表面を削ることは絶対に行ってはいけません。理由は以下の通りです。

  • 躯体への損傷:コンクリートは建物の強度を支える構造体であり、削ることで強度低下や亀裂の原因になります。
  • 原状回復トラブル:賃賃物件の場合、削ることで大家・管理会社との原状回復トラブルに発展するおそれがあります。
  • 粉塵によるリスク拡散:削ることで体液が染み込んだ粉塵が飛散し、作業者や周囲への健康リスクが増大します。
  • 法的リスク:無資格・無許可での構造体加工は、建築基準法等に抵触する可能性があります。

知識のない業者・自己判断による対応にご注意ください

実際の現場では、においが取り切れないことに焦り、コンクリートを削って手っ取り早く対応しようとする業者が見受けられます。これは特殊清掃における十分な知識・経験がない業者が陥りやすいパターンで、一見「におい対策として効果がありそうに見える」ため、安易に選ばれてしまうことがあります。

しかし前述の通り、削る行為は躯体を傷つける行為であり、後になって建物所有者や管理会社から損害賠償を請求されるケースにつながりかねません。特殊清掃は「においを消す」ことだけが目的ではなく、建物の資産価値や安全性を維持したうえで原状回復することが本来の目的です。

依頼先を選ぶ際は、次のような点に注意することをおすすめします。

  • 「コンクリートを削ってにおいを取ります」といった説明を前面に打ち出す業者には注意する
  • バイオ洗浄・酵素処理・シーラー処理など、削らない方法での対応実績があるかを確認する
  • 作業内容や工程について、根拠を示しながら丁寧に説明してくれるかを見る

また、こうした知識と経験を要する作業は一般の方が自己流で行うべきものではありません。薬剤の扱いや浸透具合の判断には専門知識が必要であり、誤った対応はにおいの再発だけでなく、健康被害や建物の損傷につながるおそれがあります。

よくある質問

q

コンクリートに染み込んだにおいは、本当に完全に消えますか?

a

汚れの深さや経過日数によって差はありますが、バイオ洗浄・過酸化水素処理・拭き取り・乾燥のサイクルを根気強く繰り返すことで、多くの場合はにおいを大幅に軽減、または感じられないレベルまで抑えることが可能です。それでも取り切れない場合は、削るのではなくシーラーで臭気を封じ込める方法を選択します。

q

自分で薬剤を使って掃除してもよいのでしょうか?

a

市販の洗剤や漂白剤で対応しようとすると、浸透具合の見極めや薬剤の使い分けが難しく、においが再発したり、健康被害につながるおそれがあります。特に体液汚れは目に見える範囲より広く浸透していることが多いため、一般的な洗剤や漂白剤では太刀打ちできません。

q

なぜコンクリートを削ってはいけないのですか?

a

コンクリートは建物の強度を支える構造体であり、削ることで強度低下や亀裂につながるおそれがあります。また、粉塵に汚れ物質が含まれることで健康リスクが拡散するほか、賃貸物件では原状回復トラブルや損害賠償に発展するケースもあります。

q

業者を選ぶときに気をつけるポイントはありますか?

a

「削ってにおいを取ります」と説明する業者には注意が必要です。バイオ洗浄や酵素処理など、削らない方法での対応実績があるか、作業内容を根拠とともに丁寧に説明してくれるかを確認するとよいでしょう。

q

においが取れたかどうかは、どうやって判断するのですか?

a

私たちは嗅覚による確認に加えて、臭気測定器(OMX-ADMなど)や混合臭測定器といった専門機材で数値的に確認する方法もあります。またファイバースコープを使い、目地やひび割れなど目視しにくい箇所の内部汚れも確認します。


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