一人暮らしの方が自宅で亡くなる「孤独死」の背景には、さまざまな事情がありますが、その中のひとつに「糖尿病」が関係しているケースがあります。持病をコントロールしきれないまま体調が急変し、そのまま発見が遅れてしまうのです。
今回ご紹介する現場も、糖尿病の治療を続けながら一人で暮らしていた方のお部屋でした。孤独死に至る経緯は一人ひとり異なりますが、持病を抱えながら誰にも気づかれずに亡くなってしまうケースは、決して珍しいものではありません。
目次
- 糖尿病で亡くなった部屋の死臭は「甘い」というのは本当?
- そもそも糖尿病とは、どんな病気なのか
- 血糖値をコントロールする「インスリン」の役割
- 糖尿病にはいくつかのタイプがある
- 孤独死につながりうる「糖尿病の最終局面」
- 糖尿病、あるいはその予備群はどのくらいいるのか
- 糖尿病で亡くなる方、合併症で苦しむ方はどのくらいいるのか
- 糖尿病による主な合併症
- 糖尿病を予防するために、まず知っておきたいこと
- 糖尿病予防の具体的な5つの方法
- 糖尿病を防ぐための食事の9つのポイント
- 糖尿病を防ぐための運動の8つの工夫
- 糖尿病になったからといって、人生が終わるわけではありません
- 異変の始まりは、バイクに乗っていたときだった
- 趣味を失うということ
- 支えを失ってしまったとき
- 息子さんが見つかった日
- 遺されたご家族の想い
糖尿病で亡くなった部屋の死臭は「甘い」というのは本当?

「糖尿病で亡くなった方の部屋は、甘いにおいがするのか」という質問を受けることがあります。結論から言うと、必ずしも甘いにおいがするとは限りません。
■ なぜ「甘いにおい」と言われるのか
重度の糖尿病や、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)という状態にある方は、体内で「ケトン体」という物質が増えます。このケトン体にはアセトン(除光液のようなにおい)が含まれており、呼気や体臭、尿から甘酸っぱいようなにおいがすることがあります。こうした特徴から、「糖尿病=甘いにおい」という印象が一部で語られるようになったと考えられます。
■ 実際の孤独死現場でのにおいは
しかし、実際の特殊清掃の現場では、死因にかかわらず、遺体の腐敗そのものによって発生する死臭のほうが圧倒的に強く現れます。この死臭には、次のような要素が複雑に混ざり合っています。
- 腐敗ガス(アンモニア、硫化水素など)
- 体液のにおい
- 血液や排泄物のにおい
- 室内環境(気温・湿度・換気状態)
つまり、糖尿病で亡くなった場合でも、遺体の腐敗が進んでいれば、他の死因のケースと同じように強い腐敗臭が発生します。「甘いにおいがする」というのは、あくまで一部のケースに限られた話といえます。
■ 現場経験者としての見解
清掃現場に立ち続けてきた立場から申し上げると、「糖尿病だから甘いにおいがする」というケースはごく一部にとどまり、一般的な現象ではありません。においの強さや質を大きく左右するのは、死因そのものよりも、季節・発見までの日数・室内の換気状況といった環境要因です。
そもそも糖尿病とは、どんな病気なのか
糖尿病とは、簡単に言うと血糖値が高くなる病気です。
私たちが食べたり飲んだりしたものは、体内で消化されてブドウ糖という成分になります。ブドウ糖は体を動かすための重要なエネルギー源で、血液によって全身の細胞に運ばれ、筋肉や臓器で利用されます。
「血糖値」とは、この血液中にブドウ糖がどれくらい含まれているかを示す数値のことです。
糖尿病になると、このブドウ糖がうまく細胞に取り込まれなくなり、血液中にあふれてしまいます。これは、インスリンというホルモンが不足したり、うまく働かなくなったりすることによって起こります。
血糖値をコントロールする「インスリン」の役割
ここでは、先ほど触れた「インスリン」について、もう少し詳しくご説明します。
インスリンは、体の中で唯一、血糖値を下げる働きを持つホルモンです。主に食後に分泌され、血糖値が急激に上がりすぎないように調整する役割を担っています。
また、血液中のブドウ糖を体の細胞に届け、エネルギーとして使える状態にする働きもあります。さらに、使いきれなかったブドウ糖を脂肪やグリコーゲンという形に変えて、体内に蓄えるしくみもサポートしています。いわば、ブドウ糖の流れを管理する司令塔のような存在です。
しかし、このインスリンが不足したり、うまく働かなくなったりすると、ブドウ糖は細胞に取り込まれず、血液中にとどまり続けます。すると血糖値が上昇し、筋肉や内臓に必要なエネルギーが届かなくなり、全身がエネルギー不足の状態に陥ってしまうのです。
糖尿病にはいくつかのタイプがある
糖尿病は、その原因や発症時期によって、いくつかのタイプに分類されます。ここでは代表的な4つをご紹介します。
■ 1型糖尿病
膵臓のβ(ベータ)細胞というインスリンをつくる細胞が破壊され、体内のインスリンが極端に不足することで発症します。子どものころに発症することが多く、かつては「小児糖尿病」「インスリン依存型糖尿病」とも呼ばれていました。生涯にわたりインスリン注射が必要になることがほとんどです。
■ 2型糖尿病
インスリンの分泌量が不足したり、筋肉や肝臓の細胞がインスリンの働きを感じにくくなったり(インスリン抵抗性)することで、ブドウ糖が細胞にうまく取り込まれず、血糖値が高くなるタイプです。食生活の乱れや運動不足、肥満、過度な飲酒など生活習慣が深く関わっていることが多く、日本人の糖尿病の約95%以上がこの2型糖尿病とされています。
■ その他の特定の原因による糖尿病
遺伝子の異常、肝臓・膵臓の病気、感染症、免疫の異常など、他の病気や要因によって発症する糖尿病もあります。アルコールの過剰摂取による肝硬変や、特定の薬剤の副作用が原因になることもあり、これらは「二次性糖尿病」と呼ばれることもあります。
■ 妊娠糖尿病
妊娠中に初めて発見される糖尿病です。母体のホルモンバランスの変化によって血糖値が上昇しやすくなり、新生児に低血糖や呼吸障害などの合併症が出ることもあります。妊娠中の適切な管理により出産後に正常に戻ることもありますが、その後の生活習慣にも注意が必要とされています。
孤独死につながりうる「糖尿病の最終局面」
糖尿病が関係する孤独死の現場では、いくつかの経過パターンが指摘されています。ここでは代表的な3つをご紹介します。
● 低血糖による意識障害
糖尿病が原因で亡くなる孤独死の現場では、最後の症状として「低血糖」が疑われるケースが少なくありません。救急隊や医師の判断でも、低血糖状態に陥ったことで助けを呼ぶことができず、誰にも気づかれないまま死亡に至るケースが報告されています。
低血糖になると、めまい、ふるえ、けいれんなどの症状が現れ、やがて昏睡状態に至ります。症状が急激に進行するため、自分で助けを呼ぶ余裕もなくなり、周囲に気づかれないまま命を落としてしまうこともあります。
● 合併症の進行による突然の体調急変
長期にわたり血糖コントロールが不十分な状態が続くと、心筋梗塞や脳梗塞といった血管系の合併症のリスクが高まります。持病として自覚していても、発作が起きたときに一人で対処しきれず、そのまま重篤な状態に陥ってしまうケースもあります。
● 急性膵炎などの急激な体調悪化
頻度としては多くはありませんが、過度な飲酒や食生活の乱れが重なることで、急性膵炎など消化器系の急激な症状が引き金となるケースも報告されています。強い腹痛や嘔吐といった初期症状が出ても、一人暮らしでは受診のタイミングを逃してしまうことがあります。
自宅で一人暮らしをしている場合、こうした状態に陥っても誰にも看取られることなく亡くなってしまう孤独死は、決して珍しいものではありません。信じがたい出来事のように思えるかもしれませんが、実際に起きている現実です。
低血糖は、時間が経てば自然に回復すると誤解されがちですが、一度、血糖を調整する体の機能が失われてしまえば、インスリン投与など外部からの適切な処置がなければ回復は望めません。
だからこそ、日頃から自分自身の体調の変化を観察し、違和感に早めに気づくことが重要です。特に一人暮らしの方や、インスリンを使用して治療中の方は、低血糖のリスクを軽視してはいけません。
糖尿病による低血糖は、命に関わる重大な症状です。日頃から体調管理を怠らず、少しでも異変を感じたら、すぐに医療機関に相談することが何より大切です。
糖尿病、あるいはその予備群はどのくらいいるのか
平成19年に実施された「国民健康・栄養調査」によると、「糖尿病が強く疑われる人」がおよそ890万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」がおよそ1,320万人と推計されています。(出典:厚生労働省「平成19年国民健康・栄養調査報告」)
この2つを合わせると、全国で約2,210万人が糖尿病もしくはその予備群であるとされ、日本人のおよそ5人に1人が該当する計算になります。
さらに見過ごせないのは、糖尿病が強く疑われる人のうち約40%が、これまで一度も治療を受けたことがないという現実です。糖尿病は初期にはほとんど自覚症状がなく、痛みも感じにくいため、検査で「血糖値が高い」「治療が必要」と指摘されても、そのまま放置してしまう人が少なくありません。
しかし、治療を受けずに放置すれば、やがて深刻な合併症や命に関わるリスクに直面することになります。「自覚症状がないから大丈夫」と考えず、早めの受診と継続的な治療を心がけることが大切です。
糖尿病で亡くなる方、合併症で苦しむ方はどのくらいいるのか
糖尿病が原因で亡くなる方は、年間およそ1万4,000人とされています。さらに、糖尿病そのものだけでなく、合併症を引き起こした結果として命に関わるケースも多く見られます。
たとえば、糖尿病による腎臓障害から人工透析が必要になる方は年間約1万5,000人、視覚障害を発症する方は年間およそ3,000人と報告されています。(出典:厚生労働省 審議会資料「糖尿病についての概況」)糖尿病を放置すると、さまざまな合併症が現れ始めるため、早めの対応と治療が非常に重要です。
糖尿病による主な合併症
糖尿病に関連して発症しうる主な合併症は、次の通りです。
- 脳梗塞
- 脳卒中
- 心筋梗塞
- 糖尿病腎症(★糖尿病三大合併症)
- 動脈硬化症
- 糖尿病神経障害(★)
- 感染症
- 皮膚の病気
- 糖尿病網膜症(★)
※「★」の付いた3つは「糖尿病三大合併症」と呼ばれ、特に糖尿病に特有の重大な合併症とされています。
● 糖尿病神経障害
合併症の中でも比較的早い段階で現れることが多いのが、この神経障害です。主に手足の末梢神経に異常が起き、次のような症状が見られます。
- 手足のしびれ
- ケガややけどの痛みに気づかない
- 筋肉の萎縮や筋力低下
- 胃腸の不調
- 立ちくらみ
- 発汗異常など、自律神経障害の症状
● 糖尿病網膜症
眼の奥にある網膜の血管が障害されることで、視力が低下します。進行すると失明に至るケースもあり、注意が必要です。また、糖尿病の方は白内障を併発することも少なくありません。
● 糖尿病腎症
腎臓で尿をつくる「糸球体(しきゅうたい)」と呼ばれる毛細血管が障害され、尿がうまくつくられなくなります。進行すると人工透析が必要になります。
人工透析では、血液の不要な成分を機械でろ過し、体外で処理する必要があるため、週に2~3回の通院が必要となり、日常生活に大きな制限が生じます。現在では、人工透析の原因の第1位が糖尿病腎症であり、予防と早期治療が強く求められています。
糖尿病を予防するために、まず知っておきたいこと
糖尿病を予防するうえで、最も重要なポイントのひとつが「肥満を防ぐこと」です。平成14年に実施された「糖尿病実態調査」でも、過去に最も体重が重かった時期がある人ほど、糖尿病にかかるリスクが高いという結果が明らかになっています。(出典:厚生労働省「平成14年度糖尿病実態調査報告」)
肥満かどうかを判断する際には、BMI(ボディ・マス・インデックス)という指数が広く用いられています。BMIは身長と体重から算出される数値で、病気のリスクが最も少ない体重を統計的に割り出したものです。
■ BMIの算出方法
BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m)の2乗
日本人の場合、BMIが22のときが最も病気にかかりにくいとされ、健康的な体重の目安とされています。一方、BMIが25以上になると「肥満」と判断され、糖尿病をはじめとした生活習慣病のリスクが高くなるため注意が必要です。
糖尿病予防の具体的な5つの方法
- 適正体重の維持
過度な体重増加を避け、BMI22前後を目指しましょう。 - バランスのとれた食事
高カロリー・高脂肪・高糖質の食事を控え、野菜・魚・大豆製品などを積極的にとりましょう。 - 適度な運動の習慣化
ウォーキングや軽い筋トレなど、週3〜5回の有酸素運動が効果的です。 - 飲酒・喫煙の見直し
飲酒は適量を守り、禁煙に努めましょう。 - 定期的な健康診断
血糖値やHbA1cのチェックを怠らず、早期発見・早期対応を心がけましょう。
糖尿病は、生活習慣を見直すことで予防・改善が可能な病気です。特に家族に糖尿病の方がいる場合や、体重が増加傾向にある方は、早めに対策を始めることが大切です。
糖尿病を防ぐための食事の9つのポイント
糖尿病の予防には、食事のとり方を整えることが非常に重要です。以下の点を意識してみましょう。
- 野菜をたっぷりとる
食物繊維が豊富な野菜は、血糖値の急上昇を防ぎます。特に食事の最初に食べると効果的です。 - 食事は決まった時間に、ゆっくりとる
毎日同じ時間に、よく噛んで時間をかけて食べることで、血糖のコントロールが安定しやすくなります。 - 甘いものや脂っこいものは「少量ならOK」
完全に禁止するのではなく、量を守って楽しむことが大切です。無理な制限より継続が重要です。 - 大皿ではなく、取り分けて食べる
食べすぎを防ぐために、自分の分を一人分ずつ取り分ける習慣をつけましょう。 - 薄味を心がける
塩分のとりすぎは高血圧にもつながります。だしや香辛料で工夫すると満足感もアップします。 - 「ながら食べ」はやめる
テレビやスマホを見ながらの食事は、満腹感に気づかず食べ過ぎる原因になります。 - 食べきれないときは無理せず残す
「もったいない」よりも「健康第一」。食べすぎない判断も大切です。 - 調味料は直接かけず、つけて食べる
しょうゆやソースはつけて使うことで、減塩につながります。 - 食品のカロリー(エネルギー)を意識する
コンビニやスーパーの商品には栄養表示があります。内容を見て選ぶ習慣をつけましょう。
糖尿病を防ぐための運動の8つの工夫
日常生活の中で無理なく運動を取り入れることも、糖尿病予防には効果的です。
- 外出時は少し早歩きを心がける
普段より少しだけ歩く速度を上げるだけでも、運動効果が得られます。 - 遠回りして歩く距離を増やす
目的地までの道を少し遠回りすることで、無理なく運動量を増やせます。 - 買い物は歩いて、こまめに行く
まとめ買いを避けて、歩く回数を増やすのも有効です。 - 3階くらいまでなら階段を使う
エレベーターを使わず、日常の中で「筋肉を使う」機会を増やしましょう。 - 1日1万歩を目標に
スマホや万歩計を使って歩数を意識すると、モチベーション維持に役立ちます。 - 週に1回は隣の駅まで歩く
目標のあるウォーキングは継続しやすく、運動習慣づくりに最適です。 - テレビを見ながらストレッチ
「ながら運動」なら続けやすく、柔軟性や血流改善にも効果的です。 - 泳げなくても水中ウォーキングを
水の抵抗を使った運動は関節に優しく、年齢を問わず取り組めます。
糖尿病になったからといって、人生が終わるわけではありません
今回、私たち遺品整理人は、糖尿病と闘いながら一人暮らしを続け、静かにお部屋で亡くなっていた故人のもとへお伺いしました。
糖尿病になったからといって、すぐに人生が終わってしまうわけではありませんし、「いつ死んでもいい」と諦めてしまうような病気でもありません。きちんと治療を受け、生活習慣を見直し、病気とうまく付き合っていけば、一般の方と変わらない日常を送ることは十分に可能です。
しかし、今回の故人は、日常的にお酒を過剰に摂取しており、糖尿病の合併症を抱えたまま、誰にも看取られることなくひとり、最後のときを迎えられました。まだお若い男性でした。
遠方から駆けつけた高齢のお母様は、私たちに何度も息子さんの名前を呼び、「もっと違う生き方ができたはず」と、まるで自分自身に語りかけるように、その想いを静かに、けれど確かに伝えてくださいました。
私たちが伝えたいこと
糖尿病は、正しく向き合えばコントロールできる病気です。しかし、放置したり、生活を見直さないままにすると、取り返しのつかない現実が待っていることもあります。
このような現場に立ち会う私たちだからこそ、「命を大切にしてほしい」「後悔のないように生きてほしい」そんな願いを込めて、皆さまにお伝えしたいと思います。

異変の始まりは、バイクに乗っていたときだった
息子さんのことを語ってくださったのは、お母様でした。バイクが好きだった息子さんは、ある日、大型バイクに乗っているときに体のだるさとめまいを感じ、意識がもうろうとするなかで走行を続けた結果、道路脇のガードレールに突っ込んでしまったそうです。
そのときの怪我は深刻で、一時は片足を切断する可能性があるほどの大事故でした。幸いにも懸命な手術によって足は残りましたが、長期間のリハビリが必要となり、本人は回復よりも「死」を考えるほどの絶望感を抱えていたといいます。
事故の原因は、バイクの運転中に起こした低血糖発作だったと後からわかったそうですが、当時の本人はそのことに気づけていなかったのかもしれません。
バイクは、彼にとって唯一のストレス発散だったのでしょう。しかし、糖尿病という病気を抱える身では、自分の体調の変化と向き合いながら「少し休む」ことの大切さを、忘れてはならなかったのだと思います。
趣味を失うということ
懸命なリハビリを経て、日常生活が少しずつ送れるようになった息子さん。しかし、もうギア付きの大型バイクには乗れないと医師に言われ、代わりに選んだのはスクータータイプのバイクでした。
けれど、大型バイクのような「楽しさ」はそこにはなく、次第に気力を失っていったと、お母様は話していました。
今思えば、心が沈んだ状態が続いていたのかもしれません。母親に電話をかけてきては、次のような言葉を繰り返していたそうです。
「いつ死んでもいいんだ、酒はやめられない」
生きる意味を見出しにくくなっていた、そんな彼の苦しさが、今となっては深く心に残ります。
支えを失ってしまったとき
誰にでも、落ち込んでしまうことはあると思います。そんなときに、趣味や誰かとのつながりが、心の支えになることもあります。
けれど、その「楽しみ」すらも失ってしまったとき、人は生きる意味さえ見失ってしまうことがあるのかもしれません。
「親としては、自分よりも長く生きてほしい」と願うものですが、当事者が精神的に追い詰められているときには、その願いすら届かないこともあります。
だからこそ、複数の趣味や支えを日頃から持っておくこと、そして周囲がその変化に早く気づいてあげることが大切です。人は誰しも、常に強い心を持っているわけではありません。
息子さんが見つかった日
息子さんが発見されたのは、亡くなってから10日後のことでした。
何度連絡しても繋がらないことを不安に思ったお母様が、自ら部屋を訪れたところ、すでに息を引き取っている状態だったといいます。
糖尿病からくる心身の不調、そして低血糖の発作。いくつもの要因が重なった結果だったのかもしれません。
お母様は、部屋の中で一つひとつ遺品を手に取りながら、思い出話を静かに語り、形見分けを進めていかれました。ご自身もリウマチで足を痛めていたにもかかわらず、私たちと一緒に遺品整理を行うそのお姿は、今でも心に残る現場のひとつです。
遺されたご家族の想い
もしかしたら、故人は「いつか見つけてもらえること」を待っていたのかもしれません。あるいは、ある程度の覚悟を持っていたのかもしれません。
部屋には必要最低限の家具と家電しか置かれておらず、「誰かに迷惑をかけないように」と、あらかじめ身の回りを整えていたかのような印象を受けました。
「なんとかできなかったのかなぁ……」と繰り返していたのは、弟さんとお母様でした。私たちはその言葉を何度も聞きながら、「この姿を、どこかで故人にも見ていてほしい」と願わずにはいられませんでした。
一人暮らしの方が自宅で亡くなる「孤独死」の要因のひとつに、「糖尿病」が関係し、死後の発見が遅れてしまうケースがあります。
今回訪れた現場も、糖尿病の治療を続けていた故人の住まいでした。
孤独死に至る背景は人それぞれで異なりますが、病気を抱えながら一人で暮らし、誰にも気づかれないまま亡くなるケースは決して少なくありません。
