さりげない抵抗

気温が35度を超す真夏に緊急の依頼が増す孤独死の特殊清掃

その多くは臭いと窓に群がるハエの大群を発見したから。

いつもの生活では嗅いだことのない臭いに異臭と感じたいていの人はどうすればいいかわからない、むしろ人が亡くなっている臭いなんて葬祭業や警察などでないとなかなか感知できるものではないはず。

普通に警察へ通報すればいいのだが、躊躇という行動が出てきてしまう。「もし間違った通報をしたらどうしよう」「第一発見者として疑われたくはない」「ほかのだれかが通報してくれるだろう」

しかし、世の中というのは誰かがと思っていてもみんな同じような考え方を持っている人ばかりが現実である。

今回の依頼は、真夏に依頼をうけた孤独死の特殊清掃の現場。

通報してくれたのは新聞配達員だった、新聞が何日も溜まっていてもうポストに入れることができない。住民から旅行へいくとの連絡も入っていない。

ふと、部屋が1階だったので裏側へ回って窓が少し開いていたのでそこから新聞を入れようとしたら住人がもう死んでいるのが確認できたという。

窓からは次々にハエが外に出ていく状況であわてて警察に通報したのだそうだ。

警察から連絡をうけた遺族は突然のことで「まさか、こんなふうになるなんて」と信じられないと語る。

警察には部屋の中には入らないほうがいいと言われ遺族も入っていない、「入らないほうがいい」それはあまりにもショッキングな光景が広がっているので精神的に辛くなるということだろう。

月日が経過しているので遺体は腐敗しDNA鑑定も必要になる。遺体のあった場所には削げ落ちた肉片を蝕むハエの幼虫のウジたちが所せましに動き回っているだろう。

夏場に臭いが発生している状況ではもうウジが大量発生していることに間違いはないことが多い。

遺族から依頼を受け状況を聞き、殺虫剤をあるだけ持参し臭いを抑えるために薬液も多めに車に積んだ。県境をまたいだあたりで現場の状況を推測するのだが年間何千件と行っている私のカラダは想像しただけで車の中で嗚咽してしまう。

特殊清掃の仕事をしているから、現場を誰よりも重ねているからといって慣れるものではない。臭いを嗅いだり想像したりすればそ嗚咽がでてしまう。

もうカラダに染みついた職業病なのかもしれない。

一刻も早く現場に向かい部屋を縦横無尽に飛び回るハエを駆除し、近隣のためにも本格的に作業に入る前に臭いを一時的に抑えておかなければ苦労するのは遺族やオーナーになる。

車を走らせ周りを見ていると暑さに顔をゆがませたり、社内でクーラーにあたり涼しそうな顔をしていたり、歌を歌ったりしているいつもの光景が目に入ってくる。

そんな光景をみながら私たちは今、人が部屋の中で亡くなっていた現場へと急いでいる。反対車線の人は看板も何も入っていない私たちの車両を見ても何も思わないし感じることはないだろう。

現場につき、遺族とあいさつを済ませ大急ぎで準備に取り掛かる。真夏の暑さの中通気性のない服に着替えるのはまるでダイエットでもしているようなサウナスーツのようなもの。汗がダラダラとほおをつたる中殺虫剤と薬液をもって部屋に入る。

そこは、電気もついていないクーラーもついていないまるで「真っ暗なサウナ」に入った感じだ。その暗闇の中でハエがブンブンと音を立てて威嚇してくる。

耳の付近を通る時はブーンという音が本当に大きく聞こえて怖ささえ感じる。

遺族は警察から見るのをストップされているので部屋には入る勇気がない。私たちが代わりに部屋の状況をつたえるために画像として描写する。

部屋の中のどこで亡くなっているのかは警察の判断になるが事細かくは教えられていない。実際に私たちが部屋に入り遺体跡をみてどのような場所で亡くなっていたのかを遺族に伝えるのだが状況までは言いずらい。

一通りの応急処置を終えて外にでて殺虫剤と薬液の反応を見る、その間に遺族に状況を説明したり今後の作業内容などを説明したりするのだが順調に進めばそれに越したことはない。

しかし、今回はちがった。古い考えの不動産屋が現れたのだ。

遺族が状況をオーナーに説明しできるところまでのことでいいという話で落着していたところに、オーナーから話を聞きつけた高齢の不動産業者が「事故物件、事故物件」と連呼し部屋のすべての修繕を遺族に要求していた。

当然に部屋のすべての修繕をすれば何百万から何千万の修繕費用になることもあるがそれは遺族がすべてを背負う必要はない。明らかに死人に口なしでここぞとばかりに穴の毛までむしり取ってしまおうという横暴な手段だ。

私は遺族に突っかかる不動産屋に対してささやかな抵抗をしようと決めた。

できうる限りのことをして最低限の修繕費用で済むように臭いも完全に取り切ることや床についた遺体跡も知り合いのリフォーム会社で安く済ませてもらおうと算段をした。

何を言っても意見を聞こうとしない不動産屋は自分のお抱えである業者に依頼しようとして高額な要求をしてくるが、オーナーと話を進め同等の材料などで元通りにしていく話をつけていた。

その話を聞きつけた不動産屋はまた意見を聞くこともなく「臭いがとれなかったらどうする」と突っかかってくるが私には長年の経験があるので臭いが取れないというよりも臭いを取り切って鼻を明かしてやろうと考えていた。

不動産業者は自分のお抱え業者でできないことが気に食わないために私に「念書」を書けと要求してきた。念書を書いてもいいが取り切った暁には遺族に頭を下げる約束をして合意した。

期限は3週間、その間に臭いを取り切る自信しかなかった。

オーナーよりも不動産業者が歳が上の場合、不動産業者のやりたいようにやられてしまうことも少なくない。しかし、人の死に関しては別、少しは遺族の気持ちに寄り添った考え方も必要ではないかと思う。

オーナーは家賃収入があったのでその気持ちは持ち合わせていたが不動産業者は仲介料なので気持ちがないこともある。

なぜ、臭いを取り切る自信しかなかったのか。それは機械で臭いを計っているのと経験によって研究と開発をしてきた絶対的な技術があるからだ。

技術なくしては臭いを取り切ることは不可能、だが、経験と研究を繰り返していくことによって自分自身勉強をさせてもらったのは事実。

不動産業者のお抱えは、そんなのお構いなしで片付けるだけしかやらない業者が多いから莫大な修繕費用の請求になる。死人に口なしで商売するようなことはしたくないな。

いちばんの臭いを放っていたのは肉片がこびりついてしまっている床だった。床に肉片が落ちその床の下にもおびただしい量の体液が漏れてしまっているため床を大工に剥いでもらいそのあとの床下の洗浄と消毒を入念に施し臭いがなくなるまで繰り返した。

床下の臭いが取れればもうあとの壁や天井などの臭い取りは心配ない。早めに臭いの強い箇所を対処したので残す時間は十分にある。機械で臭気を計測しても最初の半分以下には下がっている。

あとは、壁や天井など部屋内のスイッチなどすべてをキレイに洗浄して拭き取っていく。一度にやろうとしないで箇所ごとに分けてやることで段取りが付く。

納期の3週間後に迫る前にも不動産業者は遺族に脅しのような電話をかけまくっている。遺族からは心配の声で電話が掛かってくるが実際に現場で作業している私たちはその心配は必要ないと伝えた。

納期の3週間後、遺族とオーナーと不動産業者で立ち合いの確認をするために時間を合わせ部屋で話し合いをすることになった。当然私も同席し機械で臭気測定をしていた。

オーナー「臭いはしない、大丈夫だね」

遺族「あんなに臭いがしていたのに」

不動産業者「まだわからないから」

どこまで往生際がわるいのだろうと感じていたが、オーナーが納得している以上「念書の約束は守ってもらう」

不動産業者はそんな念書は無効だといい、結局さいごまで遺族に謝ることはなかった。

しかし、オーナーと遺族の間に安堵が戻ったことに間違いはなかった。それを見て私たちも安心した。

年の為、1カ月後に臭い戻りがないか検査するためにオーナーに1カ月後に再訪させてもらうことを確認し別れた。

1カ月後、もう一度臭いを計測するために訪れたのだが機械で計った1カ月前と変わらず良好だったので今回の特殊清掃は無事に終了することができた。

不動産業者がなぜあそこまで臭いが取れないと言い放ったのかは、お抱えの業者にいつも頼んでも臭いが取れていなかったのでどこに頼んでも一緒という概念を持っていたからだった。

これで、臭いのとれる業者を知ってくれることができたのでそれ以上は謝罪は誰も謝罪は要求しないこととなった。

また、いつか同じような考えの不動産業者がまだまだいるんだろうなと思いつつ帰路についた。

終わり。

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増田 祐次

2000年に遺品整理・孤独死の特殊清掃専門の遺品整理クリーンサービスを創業、2010年に株式会社ToDo-Company として法人化し専門チームの孤独死清掃本部を設立、遺品整理人を育成している。「遺品整理人®︎商標登録:第5967866号」 受賞歴:銀賞 2018 NEW YORK FESTIVAL LONELY DEATHS (孤独な死) ザ・ノンフィクション「孤独死の向こう側 ~27歳の遺品整理人~」視聴率歴代7位

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